サステナビリティ情報開示おける調査・研究を行っている一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会(代表理事:安藤光展、以下:当協会)は、サステナビリティに関するウェブコンテンツページ(以下:サイト)の情報充実度で格付けした「サステナビリティサイト・アワード2024」(以下:本アワード)を本日発表したのでお知らせします。
アワード概要
本アワードは、当協会が上場企業のサイト運営実態調査を目的として、2017年に日本で初めてサイト総合調査および格付けとして発表してから毎年行っており、今回で8回目となります。本アワードは、国内全上場企業および非上場大手企業のサイトにおいてサステナビリティ情報充実度調査を行い、総合的に優れたサイトを「ゴールド(最優秀賞)」「シルバー(優秀賞)」「ブロンズ(優良賞)」のクラスで表彰しています。今年の受賞企業は以下の通りです。
表彰企業(順不同)
◯ゴールド(3社)
大和ハウス工業
三井不動産
TDK
◯シルバー(14社)
森永乳業
三井金属鉱業
住友林業
不二製油グループ本社
旭化成
住友ゴム工業
大日本印刷
伊藤忠商事
SUBARU
ダイセル
ニッスイ
キリンホールディングス
レゾナック・ホールディングス
ファミリーマート
◯ブロンズ(27社)
日本ハム
J. フロント リテイリング
三越伊勢丹ホールディングス
野村不動産ホールディングス
三菱瓦斯化学
三井化学
京セラ
日本化薬
アステラス製薬
出光興産
ブラザー工業
かんぽ生命保険
三菱地所
大建工業
凸版印刷
東京エレクトロン
日本郵船
大成建設
日本電気
コカ・コーラ ボトラーズジャパンHD
セイコーエプソン
ブリヂストン
コクヨ
ソフトバンク
オリエンタルランド
ダスキン
ライオン
本調査の講評について
今年の評価項目は、昨年の14項目から18項目としてより細かく情報充実度をチェックしました。アワード表彰はないものの一次審査を通過した素晴らしいサイトも多くありました。また情報充実度の観点では至らない点がある企業でも、サステナビリティ推進活動の実績や成果創出が素晴らしいところもあり、今年は悩んだ審査も多かったです。
最近増えている、ESG評価機関の評価項目を意識した目次作りをする企業も一定数ありますが、サステナビリティウェブコンテンツはIRコンテンツではなくマルチステークホルダー向けのサイトであるため、我々はそれが必ずしも正しい形とは考えておらず、必ずも高評価とはしていません。もちろん、年々、企業のサイトでの情報充実度が上がっていますが、一定レベルのESG評価を獲得できる企業は全上場企業の1割に満たないのが現状です。統合報告書を発行する企業は2023年で1,000社程度と推計されていますが、サイトは二の次になっているのが現状であり、統合報告書を必要としない多くのステークホルダーの接点となるサイトのあるべき姿は何かがまだ見えません。企業の今後の発信に期待します。
さて、私たちの評価はユーザビリティ評価も含むためアナログな評価方法で行っていますが、多くのユーザー(投資家・評価機関など)の中でAIを使った評価が急速に普及しています。2023年3月にOpenAI社の対話型AI「GPT-4」が登場し、一般ユーザーでも高品質なAIの利用が可能になりました。従来からAIツールはさまざまな企業から発表されていましたが、その精度や一般でも使える仕組みが限られており、誰でも使えるという点でも大きな話題となりました。当然、この一年でESG分野でも研究者からアナリストまで日常的にAIを使うようになり、企業の発信するサステナビリティ情報から、企業発信以外の情報もESG評価に取り入れられるようになりました。評価機関だけではなく、すでに機関投資家も統合報告書やサステナビリティレポート、サイトなどの情報整理や評価にAIを活用しており、2024年にはますます多くのESG評価の場面でAIを活用されることになるでしょう。
毎年毎年、全上場企業のサイトをチェックしていると、小さいながらも絶えずトレンドが変化しているのを確認できます。2024年はよりステークホルダーに企業価値を理解していたいただけるよう「ステークホルダー・ファースト」なサイト作りを目指しましょう。本アワード受賞企業のサイトは、多くの企業にとって道標となる先進企業であり、学びの最有力候補になるはずです。
コメント:安藤光展(本アワード審査員長、サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事)
サステナビリティサイトはどうあるべきか
さて、全上場企業および大手非上場企業のサイト調査を目視で何年も実施しているアナリストは世界で私たちだけと思いますが、ここ数年でサイトのあり方が変化してきているように感じています。結論から申し上げますと、有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示義務化を含めて、開示メディアの多様化により、サイトの立ち位置が大きく変化している点です。サステナビリティ情報を発信するメディアが多極化しており、統合報告書、サステナビリティレポート、そしてサイトという開示媒体の役割分担をいかに定義できるかが企業に求められています。
超大手企業となるとサイトの情報量が非常に多く、更新作業に相当時間がかかっています。その改善策として、サステナビリティレポートのPDFを多用し、定型情報以外は該当コンテンツのPDFを差し替えるだけにしている企業も増えています。情報開示を「統合報告書+サステナビリティレポート(メイン)+サイト(サブ)」にする例です。我々のサイト評価では現状PDFコンテンツは評価しないため、こういった企業のコンテンツ評価の最適解を見出せていません。今後、こういったスタイルの企業が増えれば、評価方法を大きく変更する可能性はあります。
また、2023年は日立製作所やアステラス製薬が統合報告書のページ数を半減させた話題がありました。これらの方向の異なる方法論が広がっていますが共通点もあります。それは「統合報告書をよりナラティブに」という方向性です。つまり、統合報告書のボリュームを減らし、よりマテリアルな情報と主要な背景情報の開示(ストーリーテリング)をメイン情報にしようとという動きです。その統合報告書から削除された情報の補足を、サイトでするレポートでするか、というだけなのかもしれません。つまり、大きな方向性として「統合報告書+サイト(メイン)」か「統合報告書+サステナビリティレポート(メイン)+サイト(サブ)」という形かという二極化が進んでいる傾向があります。なお、統合報告書を発行していないレベルの企業はサイトにも情報が少なく、そもそもの情報が不足している例がほとんどです。
従来からサイトを充実させて、サイトの内容をサステナビリティレポート(PDF)の形式にまとめる開示形式はありました。こちらは事実上の「統合報告書+サステナビリティレポート(サブ)+サイト(メイン)」と言えます。一方でサステナビリティレポートの発行を取りやめる企業も毎年一定数あるため、その場合は「統合報告書+サイト(メイン)」の形になります。これらはどちらが正しいという話ではなく、自社がどちらの開示戦略を取るべきかを議論することが重要という示唆です。まさにサイトでの情報開示は過渡期であり、多くの企業が試行錯誤をしながら最適解を探しています。
ちなみに、サステナビリティ情報開示の「質」を上げるには何が必要か考えたことはありますでしょうか。答えは「フィードバック」です。開示した情報が「良いか、悪いか」は、情報の受け手となるユーザーが決めることであり、企業が決められることではありません。サイトの質を高めたいのであれば、どれだけステークホルダーからフィードバックを受けるかを考える必要があります。貴社にとって、サステナビリティサイトの“あるべき姿”はどのようなものでしょうか。サステナビリティサイトの目的は何で、その成果はどのようなものでしょうか。
文責:安藤光展(本アワード審査員長、サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事)
調査概要
◯コンセプト
上場企業のサイトにおける情報充実度を調査し日本で最も優れたサイト運営をする企業を抽出する。
◯対象
国内全上場企業(2023年7月31日時点)および一定の事業規模がある大手非上場企業の合計4,043社の、コーポレートサイトにおけるサステナビリティ/CSR/SDGs/ESG/CSV/社会・環境に関連するコンテンツ、サステナビリティ関連の特設サイトなど、サステナビリティについて総合的に解説した日本語のウェブコンテンツ、ウェブページが調査対象。
コーポレートガバナンス・環境・社会貢献(慈善活動・企業寄付・地域貢献など)などに関する単独ページ、IRサイト、採用サイト、ECサイト、商品サイト/ブランドサイト/キャンペーンサイト、統合報告書およびサステナビリティレポートのコピーコンテンツ(HTML版)、統合報告書およびサステナビリティレポート/CSR報告書/社会・環境報告書などのPDF(リンクからの単独PDFページ含む)、電子ブック、動画、は調査対象外。
◯期間
2023年8月1日〜2023年12月28日(期間内で内容変更があった場合は更新前の状態で評価している場合あり)
◯評価手順
1. 一次審査:対象企業においてスクリーニング評価をし基準を満たした企業を抽出(88社)
2. 二次審査:抽出された企業をスコアリングしランキング化して上位企業を抽出(44社)
3. 最終審査:抽出企業を格付要件に照らし合わせて格付けランクを選定
◯評価方法
評価方法は、サステナビリティ情報で開示すべきとされる独自設定した18テーマの主要要素を軸に、評価テーマに紐づく詳細項目で調査を実施。ISSB等の国際開示ガイドラインで重視される枠組みである4つの開示構成要素「ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標」を包括的な評価要素とした。サイト/ページの特性とあるべき姿を考慮し、財務的影響も考慮したダブルマテリアリティ視点を取り入れている。調査対象企業へのヒアリングやアンケート調査はなく、専門知識を持つアナリストらが目視で全サイトの公開情報のみを調査し評価基準にそって評価。ユーザビリティ評価をするためにAIによる評価は行なっていない。
ホールディングス(連結会社等含む)が調査対象の場合はホールディングス自体のサイトを評価。関連会社等へのリンクや情報開示がある場合はそれらの情報を考慮。個別項目の定量的な比較分析はしてない。財務評価による加点・減点はしてない。サイトはマルチステークホルダー向けのコンテンツの想定であるため、必ずしも機関投資家およびESG評価機関の目線では評価していない。なお、行政処分等を受けたもしくはステークホルダーへの影響力が大きい不祥事を起こしたと判断される企業は調査時に選考から除外している場合がある。
◯評価項目の選定
評価項目の選定方法は、サステナビリティ情報開示に関連する国際的ガイドライン、国内外のESG評価機関の評価項目、サステナビリティに関連する格付け・アワード・ランキングの評価項目、国内外の関連イニシアティブの重要項目、国内の官公庁および証券取引所の推奨開示項目、各種民間調査によるステークホルダーの情報ニーズの高い項目、そのほか世界の潮流・動向等も参照し選定。評価要素は社会の変化に合わせ毎年抜本的な見直しを行なっておりグローバルトレンドとの整合性を高めている。本調査では評価項目が18テーマあり、各テーマごとに15項目以上、合計300項目以上の詳細項目がある。公平性を保つため、詳細項目、評価基準、配点・評価比重等は非公開。
◯主要評価テーマ
<全体項目>
1. ガバナンス:サステナビリティ関連のリスクと機会を管理するための、方針・推進体制の開示がある
2. 戦略:サステナビリティ関連のリスクと機会が、組織の事業・戦略におよぼす影響についての開示がある
3. リスク管理:サステナビリティリスクを、組織がどのように特定し評価・管理しているかの開示がある
4. 指標と目標:サステナビリティ関連のリスクと機会を評価・管理するための指標と目標の開示がある
5. 結合性:サステナビリティ推進活動と経済的成果との統合された開示がある
6. 独自性:独創的な価値創造および活動成果の開示があり、強みや競争優位性を表現できている
7. 時間軸:短・中・長期の時間軸における戦略・目標および活動計画や成果に関する開示がある
8. ストーリーライン:筋書きが明確でコンテンツ構成に一貫性がある
9. ウェブアクセシビリティ:あらゆるステークホルダーに配慮されたウェブデザインとなっている
<個別項目>
10. パーパス:パーパスを含む企業理念等の理念体系を理解できるだけの情報が十分にある
11. トップメッセージ:経営者のサステナビリティに対する姿勢が理解できるだけの情報が十分にある
12. マテリアリティ:マテリアリティ項目およびその特定プロセスに関する情報が十分にある
13. エンゲージメント:ステークホルダーエンゲージメントに関する情報が十分にある
14. アウトカム:経済的および社会的な活動成果に関する定量的な情報が十分にある
15. 価値創造プロセス:経済的および社会的な企業固有の価値創造に関する情報が十分にある
16. 環境:気候変動、生物多様性および環境全般に関する網羅的かつ詳細な情報がある
17. 社会/人材:人権、人的資本および社会全般に関する網羅的かつ詳細な情報がある
18. 組織統治:コーポレートガバナンス全般に関する網羅的かつ詳細な情報がある
◯アワード格付要件
ゴールド・シルバー・ブロンズの各賞の上限社数は設けていないため毎年受賞企業数が変動している。
・ゴールド(最優秀賞)
1. 各情報が具体的かつ網羅的に開示されサイト自体の完成度が極めて高い
2. ステークホルダーの情報ニーズを満たす開示が具体的で十分に行われている
3. 他の企業のサイトの模範となる品質である
・シルバー(優秀賞)
1. 「ゴールド」には至らないものの情報充実度が高い
2. ステークホルダーの情報ニーズを満たす開示が十分に行われている
3. 他の企業のサイトの模範となる品質である
・ブロンズ(優良賞)
1. 「シルバー」には至らないものの情報充実度が高い
2. ステークホルダーの情報ニーズを満たす開示が十分に行われている
評価の透明性向上の取り組み
評価の独立性および透明性・公平性の確保のために、当協会は調査対象企業と資本関係をもたず、また調査対象企業の非公開情報による評価は一切行っていない。当協会と利害関係(取引関係)にある企業の評価に関しては、評価担当者が独断的に評価に関与できない仕組みを採用している。また当協会実施の「サステナビリティサイトの第三者評価」においては、アワードの主要評価項目や調査ノウハウを一部活用しているが、公平性の観点から過去データを含む個別企業評価データや詳細評価項目の情報提供およびデータ販売を行なっていない。
ご案内:サステナビリティサイトの第三者評価
当協会では「サステナビリティサイトの第三者評価」を実施しています。サイトの現状分析を行い課題発見と解決策提案をセットで提言する、専門家によるアドバイザリー・サービスです。サイトの課題を明確にし解決案を知ることでより成果を生み出すサイト運営が期待できます。サステナビリティサイトのリニューアルを検討の企業様、専門家の第三者評価を受けたことがない企業様、におすすめのコストパフォーマンスの高いサービスです。またウェブサイト制作会社様との協業も行なっていますので詳しくはお問い合わせください。
当協会について
一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会(代表理事:安藤光展)は、サステナビリティ情報開示に関する調査・研究を通じ、日本企業のサステナビリティコミュニケーションの品質向上支援および啓発・普及・促進を行い、健全で持続可能な社会・経済の発展に貢献する支援活動を行っています。2016年8月設立。
URL: https://sustainability.or.jp
本件に関するお問合せ
サステナビリティコミュニケーション協会 サイト調査事務局
問合せフォーム: https://sustainability.or.jp/contact/